✣ 言(ことば)と命と光 ✣
世界で最初のクリスマスをお祝いしたのは、マリアとヨセフ、野宿していた羊飼いたち、そして東の方から来た占星術の学者たちでした。彼らは天からのメッセージを“信じた”という点で共通していました。
マリアは天使による“受胎告知”を信じました。ヨセフは夢の中で天使が告知した“恐れるな”というメッセージを信じました。羊飼いたちは徹夜で羊の群れの番をしているとき、天使が近づいて来て宣言した“今日ダビデの町に救い主がお生まれになった”というメッセージを信じました。羊飼いたちは仕事を中断してベツレヘムへ向かいました。一方、占星術の学者たちは、夜空に輝く星(天上の不思議な光)に導かれ、遠い旅路を経て、粗末な家畜小屋で探していた救い主に出会いました。
マリアとヨセフ、羊飼いはイスラエル民族(神の選民)です。天からのメッセージを“神のご計画”と信じるのは当然です。しかし、占星術の学者たちは異邦人(ペルシャ人で偶像礼拝の民)なのに信じた。当時、選民と異邦人の間に深い溝がありました。
ところが、世界で一番初めにお祝いされたクリスマスでは選民と異邦人が一緒に喜んでいたのです。あれから二千年、キリスト降誕物語は現代社会へ問いかけます。“光”はすべての人を包む…
●12月6日 週報巻頭言 山田 幸男
✣ 聞くと言ったのに ✣
ついにエルサレム陥落のときが来ました(前587年、或いは586年)。南ユダ王国の人々は、一部の貧しい民を残し、バビロン帝国へ捕囚民として移送されます。このとき、預言者エレミヤも一緒に連行されました。
ところが、バビロン王ネブカドレツァルは側近にエレミヤの鎖を解くように命じます。王はエレミヤを親バビロン派の預言者とみていました。また、廃墟となったエルサレムとユダの地復興のために、バビロン王からユダ総督に任命されたゲダルヤも、親バビロン派の捕囚民とみなされていました。総督ゲダルヤはユダの地に残った貧しい同胞と共に生活復興に努めます。鎖を解かれたエレミヤは、バビロンへ行って特別待遇を受けることもできたのですが、敢えてユダの地に残った同胞と共に生きることを選びます。彼は最後まで、「不信仰な神の民」のために、神によって派遣された預言者であり続けました。総督ゲダルヤと預言者エレミヤに支えられたユダの地の復興活動が始まると、荒れ野から戻って来た敗残兵たちが(彼らは反バビロン派=親エジプト派)がクーデターを起こし、ゲダルヤを暗殺してしまいます。
この騒動はバビロン王の知る所となり、王の怒りを恐れた者たちは、エレミヤに神さまから祝福される道を示して欲しいと懇願します。が、エレミヤが示した神の声は、彼らの思いとは違っていました。
●11月29日 週報巻頭言 山田 幸男
✣ 愚かに見える優れた希望 ✣
聖都エルサレムは近い将来バビロン帝国に占領される…ゼデキヤ王は捕えられユダ王国はこの戦争に負ける…エレミヤは人々の期待に反する預言を語り続けました。民衆のみならず、王まで怒らせた預言者エレミヤは、ついに宮殿の獄舎に拘留されてしまいます。エルサレム陥落の1年前のことでした。
その獄舎をエレミヤの親戚の者が訪ねます。親戚の者は、獄中のエレミヤに郷里の土地を買い取って欲しいと申し出ます。バビロン軍に占領されそうな現実を考えれば、土地を買うのはまったく無駄なこと。ずる賢い親戚が、まじめな親族を騙しているようにも思えます。預言者エレミヤが、どれほど神に従順で無垢な人であったとしても、この話を了解するのは馬鹿げていることに気づいたはずです。ところが、エレミヤは、これを“神の啓示”と信じて了解します。代価を支払い、証書を記し、証人を立て、正式な売買契約を実行します。
作成された証書はエレミヤの弟子バルクに託されます。この行為には深い意味がありました。エルサレム周辺の土地は、一時、敵に奪われるが、時が来れば再び戻される。これは70年後の“イスラエルの繁栄回復”を象徴する預言的行為でした。
●11月22日 週報巻頭言 山田 幸男
✣ 新しくなるために ✣
預言者エレミヤの時代(今から約2600年前)、南ユダ王国の人々(神の民)は、自分たちとは異なる宗教の「腐敗した儀式(我が子を焼いて奉献他)」(エレミヤ書19章参照)を受け入れ、本来の礼拝形態を変質させてしまいました。異なる宗教や思想を寛容に受けとめ、理解を示すことは大切です。が、当時の神の民は、安易な妥協によってミイラ取りがミイラになってしまったのです。
現代の私たちに、そのようなことはないでしょうか?
バビロン帝国の脅威に怯える南ユダ王国の人々は、希望の言葉を聞きたかったのに、エレミヤが伝えた預言は謎だらけでした。
「我々神の民は、神の審判(裁き)を受ける。その苦しみ(バビロン捕囚)によって“神の恵み(真の救い)”を見出すのだ。それから神と人との新しい関係が再創造される…。」
この預言はバビロン捕囚のあと、70年後に実現します(エレミヤ書29:10、歴代誌下36:20-23参照)。エルサレムへ帰還した人々は、神殿を再建、新しい国造りに励みます。解放された人々は、帰還直後は良かったのですが、時間経過と共に再び律法主義信仰(形骸化)へ戻ってしまう。神を第一にすると言いながら、心の中に古いもの(敵意、不和、利己心)を握っていたからです。
●11月15日 週報巻頭言 山田 幸男
✣ それは偽りだ ✣
エレミヤが語る預言に対して、まったく逆の預言を語る者があらわれました。預言者ハナンヤです。彼はバビロン帝国のユダ王国支配に抵抗する勢力に加担して、「私たちの神ヤハウェは、圧倒的な力でバビロンへ連行された人々を2年以内に連れ戻す!」と、力強く預言しました。これを聞いたゼデキヤ王、神殿の祭司たち、民衆は大いに喜びました。しかし、神の言葉をまっすぐ伝える預言者エレミヤは異議を唱えます。
「ハナンヤよ、あなたの言う通りになればどんなに良いか。そうなって欲しいと私も思う。しかし、それは偽りだ!」
二人の預言者は人々の前で正反対の内容を語ります。ハナンヤは、バビロン捕囚の象徴としてエレミヤが首につけていた軛(くびき)を砕き、「神はこのようにバビロンを倒すのだ」と勇ましく語ります。自信に満ちた預言者に人々は拍手喝采します。
一方、神の人エレミヤはカリスマ預言者の前に語る言葉を失い、逃げるようにその場を立ち去りました。この預言者対決決着をつけたのは神ヤハウェご自身でした。悔い改めを忘れ、「安易な楽観主義」に浮かれた神の民を、神は厳しく断罪します。その後、エルサレム神殿は陥落、南王国は崩壊したと歴史は伝えています。
●11月8日 週報巻頭言 山田 幸男