✣ あなたのその力で行け ✣
イスラエル12部族の一つマナセ族のエピソードです。神の民はカナン地方を荒し回る遊牧民(ミディアン人、アマレク人)の襲撃に苦しめられていました。そのとき、主の御使いが【ギデオン:「伐採者」「切り裂く」の意味】に、神の民を救う指導者になるように告げました。ギデオンが酒ぶねの中で小麦を打っているときのことでした。
本来、小麦は高台の広場で打つものです。ギデオンは遊牧民を恐れ、隠れて仕事をしていたのです。そんな臆病な男に、御使いは、【勇者よ、主はあなたと共におられる】と語り、“神の働き人”へ招きます(士師記6:12)。
ところが、このときギデオンは即座に応答しません。戸惑い、従えない理由を並べます。
新約聖書・福音書のキリスト降誕物語で、イエスさまの母となるマリアは天使の御告げを受けたとき、同じように戸惑いました(ルカ1:28-29)。
しかし、マリアは【神にできないことは何一つない】(ルカ1:37)との天使の宣言を受けて、その後の歩みを“神の御手”に委ねました。
一方、ギデオンは、最終的には神に従いますが、従う前に【しるし(証拠)】を求めます。納得できたら従うというのです。【しるし】は何度も示されました。こうして臆病な男は、【…ミディアン人を…打ち倒すことが出来る】(6:16)の預言を信じ、神の力を知る人(士師ギデオン)になっていったのです。
●9月10日 週報巻頭言 牧師 山田 幸男
✣ 神々の罠 ✣
旧約聖書・士師記(ししき)は、モーセの後継者として活躍したヨシュアの死から始まります。年代は紀元前12-10世紀(今から3200年程昔)。選民イスラエルの歴史を伝えます。その頃、選民を統一する指導者はおらず、統治機構も首都と呼ぶ中心地もありません。イスラエル12部族は、それぞれ独立行動をしながら、ゆるやかな連合体として歩んでいました。
士師記は、その時代に神に選び立てられた12人の【士師:さばきづかさ】の活躍を伝えます。今月の説教では弱小部族(マナセ族)の勇者ギデオンに注目します(6-8章)。【士師】は中国語に由来、旧約原語では“ショフェテイーム(「治める」「さばく」)”が書名です。イスラエルに王制が誕生するまでのリーダーを【士師】と呼び、地方分権を基本とする部族体制と、その後の中央主権的王制との違いを表します。ヨシュア記を「勝利の書」とするなら、士師記は「失敗の書」とされます。理由は、選民が神(ヤハウエ)に背き、カナンの神々に心奪われ、堕落した姿を繰り返し伝えるからです。背信⇒さばき⇒懇願⇒救出。…喉もと過ぎれば再び背信!
堕落と悔い改めを繰り返す選民。彼らは他国を真似て諸部族を治める王を強く求めるようになります。しかし、士師記の強調点は、選民は何度も神を捨てたが、神はその民を見捨てなかったことです。
●9月3日 週報巻頭言 牧師 山田 幸男
✣ バベルの塔と世の混乱 ✣
箱舟によって洪水の危機を免れたノア。その後、三人の息子セム、ハム、ヤフェトが系図を受け継ぎます。アダムからノアまでが10代、ノアの息子セムからアブラム(アブラハム)までが10代です。
こうして、創世記の原初史(1-11章の創世神話)は、イスラエルの民が「信仰の父」と仰ぐ族長アブラハムの生涯へ至ります。
族長アブラハムを目指す系図の途中で起きた重大なエピソードを【バベルの塔】の物語が伝えます。この物語は、天地の創造主(神:ヤハウエ)と共に歩むイスラエルの民にとって、彼ら自身の「立ち位置」を諭す“信仰の物語”です。
かつて人々は【…同じ言葉を使って、同じように話していた】(創世記11:1)。
ところが、優れた技術や知恵を手にした人々は、自ら神のようになろうとして、天をめざし、大きな塔を建て始めた。このとき、神は人々の言語を乱し、意志の疎通が出来ないようにして人々を散らし、愚かな行為を止めさせた、というのです。
【バベルの塔】物語は神の民が抱く疑問に答えます。一つは、神の民とは違う文化圏の人々がいて、違う言葉を話す謎。もう一つは、古代中東に実在したジグラット(高塔神殿)の謎とその顛末。かつて、人々が【神の門(バベル)】と呼んだ場所から、世界の【混乱(バラル)】が始まったという教訓です。
●8月27日 週報巻頭言 牧師 山田 幸男
✣ 虹〜契約のしるし ✣
大洪水後、神は、箱舟から外へ出たノアを祝福して告げました。【…雲の中にわたしの虹を置く。これはわたしと大地の間に立てた契約のしるしとなる】(創世記9:13)。ノアの物語は、神の民へ【虹】の意味を伝えます。
近代科学は【虹】の謎を解明しました。
『雨上がりなどに、太陽と反対側の空中に見える七色の円弧状の帯。大気中に浮遊している水滴に日光があたり、光の分散を生じたもの。外側に赤色、内側に紫色の見える主虹のほかに、その外側に離れて色順を逆にする副虹が見える』(広辞苑より)。
【虹】についての科学的説明も大切ですが、ノアの物語が、神を信じ、神と共に歩む人々へ伝えようとしている“メッセージ”を読み取れなければ意味はありません。
ここに描写された【虹】は、すべての被造物を対象とする“神の恵み(恩寵)”のしるしです。今後、洪水によって被造物を絶滅させることはない。雲の間に見える【虹】は、神から被造物へ一方的に与えられる“恩寵”をあらわすしるしだ、というのです。
この物語を新約聖書の光のもとで読むと、【虹】と“キリストの十字架”は神の絶対恩寵という点で重なります。人が「罪」を自覚する前から“神の恩寵”はある。この招きへの応答が神に義とされたノアの信仰です。
●8月20日 週報巻頭言 牧師 山田 幸男
✣ 『平和の実』を結ぶために ✣
歴史には、時間の流れの一コマになって良いものと、そうではないものがあります。「太平洋戦争」は絶対に忘れてはならない歴史です。終戦72年を経て、戦争体験世代は高齢化し、「戦争の記憶」は退色しつつあります。戦争体験を自分の言葉で伝える人がいなくなり、戦争の歴史に触れる機会が減れば「戦争の記憶」は確実に風化します。原爆によって戦争が終わったことは知っていても、あの戦争を、日本が宣戦布告して始めたことを知らない若者が増えているようです。「戦争」のイメージも、戦争体験世代と現代の若者は一致していないことが見落とされています。
「歴史は繰り返す」といわれます。戦争は絶対に繰り返してはならない歴史です。これを次世代へ伝えるのは先の世代の義務。誰かに任せておけば…ではダメ。実際、「平和のための戦争」を肯定する若者が現われ始めています。人類の悲劇は、こうして繰り返されて行くのでしょうか…。旧約聖書が伝える「神の民の悲劇(不信仰の繰り返し)」が重なって見えるのは、私だけでしょうか…。
聖書は【神を愛する人は、兄弟をも愛すべきです】(ヨハネの手紙一4:21)と教えます。『平和の実』を結ぶために、私たちはこの御言葉を心にとめ、意見の違う人と、粘り強く対話を重ねる覚悟が必要です。
●8月13日 平和祈念礼拝 週報巻頭言 牧師 山田 幸男