I子さんのことを紹介させてください。彼女は、2年前の5月に、栗ヶ沢教会にオルガンを献品してくださった女性です。わたしたちの教会のE.W.姉がガンで闘病していることを気にかけ、お見舞いにきてくださった帰りがけに、新築したこの教会に立ち寄ってくださり、そして、この教会の音響の素晴らしさを喜んで、自分の大切にしているアールボーンのオルガンを献品してくださったのでした。
わたしたちは、心から感謝をし、直後の7月6日に、彼女を礼拝にお招きし、証しと演奏をお願いし「奉献礼拝」をいたしました。礼拝後の音楽研修会でも、I子さんは、たくさんの「こども賛美歌」を、愛らしいさわやかな声でうたって、教えてくださいました。わたしたちは皆、「ああ、この方は、ほんとうに賛美歌が大好きなんだなぁ」と感じました。
けれども、ほんとうに驚いたのですが、それから数ヶ月後に、彼女は脳腫瘍で倒れました。卵大の大きさの腫瘍を摘出する大手術を経て、一度は、職場にも、教会にも復帰なさいましたが、それから二度の再発によって、今は、重篤な状態の中におられます。
今年の4月19日に、E.W.さんとご一緒に、I子さんのホスピス病棟を訪問しました。彼女のおつれあいが、見舞客のために記したノートにはこう書いてありました。
「I子に対して、治療として為すことは、もう何もありません。痛みの緩和ケアをいただき、最期のときを過ごしています。担当医からは、余命2ヶ月と言われています。いつも、お祈りありがとうございます。」
一瞬、愕然としましたが、笑みをたたえたまなざしで迎えてくださったI子さんに「一緒に賛美歌を歌いましょう」と語りかけると、目の輝きがぐんと増し、コクリとうなづいてくださいました。
「自分も少し起きあがりたい」と仕草をしました。胸から上を少しだけ傾けて、<飼い主わが主よ>をいっしょにうたいました。I子さんも、とぎれとぎれの声で、いっしょに歌いました。メロディーを追う力はありませんでしたが、歌詞を口でたどり、4節まで一緒に歌いました。「われらは、主のもの、主をのみ愛す。アーメン」
讃美のリーダーとしての、またオルガニストとしての賜物を受けてきたI子さん。でも、今、ベッドの上で、そうする自由を彼女は失っていました。けれども、「賛美」は彼女から失われていませんでした。声がどんなにかすれていても、小さくても、「賛美」は神さまの前で、何一つ欠けてはいないのです。神さまを賛美する命として彼女は、そこにいました。人々の心に、賛美することの素晴らしさを証しする人として、彼女は、そこにいました。彼女の姿のすべてが「賛美」でした。
あの訪問の日から二ヶ月が経ちました。彼女はいま、面会謝絶です。鼻から胃への経管栄養の処置を受け、静かな息をすることだけがゆるされた中を、精一杯、生きておられます。神さまにつながって、息を吸い、息を吐く。わたしは思います。彼女にとって、毎日の、その静かな呼吸は「賛美」だと。彼女が、神さまに召されるのがいつなのか、わたしたちにはわかりません。けれども、その最後の一息まで、彼女の息は「賛美」だと感じます。
●音楽礼拝の説教より 吉高 叶
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